AINETの設計と既存方式の比較
2026年10月31日 · 研究001 改訂3の補足資料
本資料は一次仕様に基づく設計比較である。他システムの実装を実行した性能評価ではない。AINET独自の形式や通信方式を維持することが有利かどうかは、現在の研究001からは判断できない。
評価する要件
対象は、明示的に許可した相手との文章・画像の交換である。本文とメタデータの識別、作者署名の検証、作者と提供元の分離、受信コピーの公開制御、受領状態の扱いを要件とする。世界規模の探索、最新版解決、現実の組織との身元対応、鍵の失効、AIの意味理解は別の要件であり、0.1で解決したものとして扱わない。
先行技術との重複と差分
| 方式・一次資料 | 既存の仕組み | AINET 0.1との関係 | 残る判断 |
|---|---|---|---|
| HTTP/HTTPS:RFC 9110 | URIで表現を取得。署名付きデータや版付きURLもアプリケーションで扱える | AINETはObject取得の検証・公開条件・受領手順を定める。HTTPで同じ契約を実装できないとは言えない | 同じObjectと保存処理をHTTPSで運び、通信方式の費用と運用上の差を比較する |
| IPFS/IPNS | 内容に基づく識別と、署名付きの更新可能な参照。IPNSの検証は取得経路に依存しない | AINET IDは本文とメタデータを含む不変Manifestに結び付く。CID互換ではなく、更新可能な名前解決はない | CIDへの対応と、名前解決をIPNSなどに委ねる構成を検討する。現在は相互運用未検証 |
| NDN | 名前付きデータへの署名と、提供経路から分離されたデータへの信頼。名前に基づく転送・キャッシュ | 作者と提供元の分離は既知の原理。AINETは既存IP上の小さなアプリケーション規約で、NDNの転送機構を実装しない | 原理の新規性を主張せず、実装範囲と資源管理の比較軸を明記する |
| Nostr NIP-01 | 署名付きイベント、イベントID、リレー、更新可能なイベントの規則 | 作者署名を保持する配信には重なりがある。NostrはSchnorr/secp256k1とJSONイベントを用い、AINETはEd25519と整数キーCBOR・別送本文を用いる | 暗号と表現の違いだけを価値とせず、必要な機能、互換性、実装負担を比較する |
| COSE Hash Envelope:RFC 9995 | ハッシュをペイロードとして示すCOSEヘッダーと、関連する形式・所在のヒント | 独自の署名包装を標準形式へ置き換える候補。AINETの公開条件やメタデータ契約が自動的に定義されるわけではない | 同じメタデータを署名対象とするプロファイルを作り、表現サイズと検証・実装負担を比較する |
| IPLD/DAG-CBOR | CIDリンクと決定的なデータ表現。mapキーは文字列 | AINETは整数キーを使い、tagを拒否するため、同じCBORでもそのまま互換にはならない | 小さな符号化という当初の選択が、変換コストと既存ツールの利用機会を上回るかは未評価 |
| C2PA 2.2 | メディアに関連付けた署名付きの主張・来歴を扱う仕様 | AINETのProvenanceは作者が署名した自由文の申告にとどまる。検証された編集履歴ではない | 将来の構造化来歴は既存仕様との対応を調べる。自由文を独自の来歴検証方式として説明しない |
これは網羅的な文献レビューではない。認証・資格情報・透明性ログ・追記型ログには、DID/VC、Sigstore、Secure Scuttlebutt、Hypercoreなど別の比較軸がある。必要な保証を決めてから調査を広げ、異なる役割のシステムを一つの速度ランキングにまとめない。
独自にした部分と代償
現在独自なのは、AINET IDとObject IDの表現、Manifestのスキーマ、署名対象の包装、制御Envelopeと受領手順である。暗号アルゴリズム、P2Pライブラリ、作者と提供元を分ける原理は既存技術を利用する。
IDと署名の用途別接頭辞、限定したCBOR型、固定スキーマは、初期実装の範囲を狭めて検証しやすくする選択だった。一方、既存のCID・COSEツールをそのまま利用できず、独立実装に専用処理が必要になる。簡単に実装できたことだけでは、この非互換性の費用を正当化できない。
Private/Publicは配布可否を示す技術的条件である。Publicでも提供ノードの明示公開と相手の登録が必要であり、無制限な接続許可や著作権ライセンスではない。公開停止は配布済みコピーの撤回を保証しない。鍵と実在する組織の関係、情報の真偽、署名済み文章に含まれる不正な指示も別の問題である。
採用判断
研究002では、同じObjectをAINETとHTTPSで運ぶ比較と、同等の保証を持つ独自包装とCOSE包装の比較を分ける。標準方式が要件を満たし、独自方式に明確な利点が認められなければ、標準方式への移行を優先する。速度だけでなく、互換性、依存関係、エラー処理、実装・維持の負担を判断材料にする。
この時点で独自方式の採用判断は未確定である。研究002の計画案に比較条件と判断の手順を示す。